音韻認識(音素認識)の重要性とアクティビティ例
私が在住しているイギリスは、現在100年に一度ともいわれるほどの降雨量の多い日々で、6月も半ばだというのに今朝も薄手のダウンを着るほど寒いです。
オンライン授業の最中、日本の皆さんは半袖やノースリーブでいいな~と画面越しに羨ましく思っています。
さて、英語でディスレクシアと検索してみると「phonological awareness(音韻認識)やphonemic awareness(音素認識)が弱い」とか「これらを鍛えることで読み書きにプラスの影響が出る」という記述を頻繁に見かけます。
ディスレクシアにはいくつかのタイプがありそれらが重複していることも多いと研究で明らかになっており、そのため各生徒に合わせたアプローチが必要ですが、特に英語圏ではディスレクシアというと音韻認識が弱いタイプが一般的と考えられており、これらを鍛えるアクティビティもたくさんウェブ上で紹介されています。
もし日本語の読み書きには問題がないのに、英語学習を始めたときにディスレクシアではないかと感じる場合、それは音韻認識の苦手さが原因かもしれません。
今日はこのphonological awareness(音韻認識)やphonemic awareness(音素認識)の説明とディスレクシアの生徒にとってのこれらの重要性、そしてこれらをどのように身に付けることができるのかをご紹介します。
Phonological AwarenessとPhonemic awareness
Phonological Awareness(音韻認識):
言葉や話し言葉の中の文章を認識し、操作する能力のことを指します。例えば、韻を踏む言葉を識別したり、頭韻を認識したり、文を単語に分割したり、単語の音節を識別したり、開始音と韻をブレンドまたは分割するといったことが含まれます。この音韻認識の中に含まれる最も高度なスキルでかつ最後に発達するのが「phonemic awareness」(音素認識)です。
Phonemic awareness(音素認識):
単語を構成する最小の音の単位(音素)に気づき、それを意識的に扱う能力のことです。例えば、 “cat” を例にとりましょう。この単語は三つの音素 /k/, /æ/, /t/ から成り立っています。音素認識を持つ人は、この単語を聞いただけで、それが三つの異なる音から構成されていることを認識できます。そして、これらの音を個別に識別し、操作することができます。例えば、/k/ の音を /m/ に変えて “mat” という単語を作ることができるのです。
また、別の例として、”stop”の場合、この単語は四つの音素 /s/, /t/, /ɒ/, /p/ から成り立っています。音素認識のトレーニングを受けた人は、この単語の中の音素を個々に取り出したり、順番を変えたり、新しい単語を作ったりすることができます。例えば、「/p/」の音を最初に移動して “pots” という単語を作ることができるわけです。
このように、音素認識は、会話中の単語の中の個々の音を扱うことに特化しており、言葉を学ぶ上で非常に重要なスキルです。特に読み書きを学ぶ初期段階でこの能力を養うことが推奨されます。
音韻認識の例:
- 「butterfly」を音節で分割すると、「but-ter-fly」の3つの音節に分けることができます。
- 「happy」と「sappy」は韻を踏んでいます。
音素認識の例:
- 「cat」を音素に分割すると、「c-a-t」の3つの音素があります。音韻認識であげたbutterflyは7つの音素に分けることができます:b – u – t – er – f – l – y
- 「top」の「t」を「h」の音に変えてと指示すると、「hop」という単語を発音できます。
どうして日本語話者(英語学習者)にとってphonemic awarenessが難しいのか
この音韻認識、練習によって身に付けられるものですが難しいと感じる方も少なくありません。それは英語と日本語では存在する音素が異なることが一つの理由です。例えば日本語には「l」と「r」の区別がなく同じように発音されることが多いため、これらの音を区別することが特に困難です。また、日本語には存在しない音(例えば英語の「th」や「v」など)を正確に聞き分けることも簡単ではありません。これらの他にも英語学習者にとって英語の音素認識がどうして難しいかについてご説明しましょう。
音素の違い:
上記で説明の通りです。英語と日本語では、存在する音素が異なります。
英語の母音は20音、存在するのに対して日本語はあ・い・う・え・おの5音のみです。また子音の数も英語は24音に対して、日本語は16音と、日本語には存在せず英語に存在する音がたくさんあります。
音の組み合わせ:
日本語は主に開音節(母音で終わる音節)で構成されているのに対し、英語には閉音節(子音で終わる音節)や連続する子音(クラスター)が含まれることが多いです。このため、日本語話者にとっては、これらの音節構造や子音の連結を理解し、発音することが難しいのです。
私の英語の授業でもtreeのtr, throughのthrなど日本語にない子音が二つ続く音を認識・発声するのが難しいと生徒も練習しています。
アクセントとリズム:
日本語と英語ではアクセントのパターンが異なります。
日本語は基本的に均等なリズムで話されるのに対して、英語はストレスアクセントが強く、単語や文の特定の部分にストレスを置くことで意味を変えることがあります。これが原因となり、音素を正しく識別する上で困難が生じます。
音の持続時間:
上記のアクセントとリズムと少し似ていますが、英語では母音の長さが意味を変える要因となることがあり識別が必要です。日本語では同じ母音でも持続時間がほぼ一定です。そのため、英語の長短の区別をつけるのが難しいことがあります。
ちなみに英語では母音の長さが意味を変える例が次のペアの単語です:
・ship と sheep:「ship」の「i」は短い母音で、「sheep」の「ee」は長い母音です。この長さの違いによって、これらの単語は意味が全く異なります(「船」と「羊」)。
・bit と beat:「bit」の「i」は短く発音され、「beat」の「ea」は長く発音されます。ここでも、短い「i」と長い「ea」の違いが「少し」と「打つ」の意味の違いを生み出します。
一方で、日本語では母音の長さが異なることもありますが、通常、意味の区別に用いられることは少なく、母音の長短はアクセントやイントネーションにより区別されることが多いです。たとえば、「おばあさん」と「おばさん」では、母音の長さが意味を区別しています。しかし、英語のように広範囲にわたって母音の長短が意味を変えるわけではありません。
phonemic awarenessを身に付けるアクティビティ
韻を踏むゲーム(Rhyming games):
似た音を持つ言葉を識別することで、言語の音韻の基礎に意識を向けます。
例)
「ボディーライムゲーム」で、子供たちが体の部位に関連する単語の韻を踏むかどうかを判断し、韻を踏む単語を考えるスキルを育てます。例えば、「head」という単語に対し、「red」や「bed」など韻を踏む単語を提示し、子供たちはそれが韻を踏んでいるかどうかを答えます。同時に「cat」のように韻を踏まない単語も提示して、識別能力を高めます。次に、「toe」や「eye」といった別の部位についても同様に行っていき、クラス全体で交流しながら学びます。
音の組み合わせ(Blending sounds):
単語を形成するために音を組み合わせ、読む力と話す力の両方を養います。
下記のyoutubeでは、音素を一つずつ子供たちに伝え、それを用いてミステリーワードを当てるというアクティビティを行っています。
音節分ける活動(Segmentation activities):
「cat」のような単語を個々の音素、例えばc-a-tに分割します。
音素操作(Phoneme manipulation):
単語の音を追加、削除、または置換して、新しい単語を作ります。
動画ではカラフルなブロックが異なる音を奏でることで、音素を操作する練習をしています。
フォニックスと音韻認識の関係性
英語ディスレクシアのお子様はフォニックスを学んだ方が良いと聞いたことがある方も多いかと思います。フォニックスと音韻認識って同じ?関係性があるの?と、疑問を持たれるかもしれません。
フォニックスとphonological awareness(音韻認識)は、どちらも言語の音に基づいたスキルであり、読み書きの学習に不可欠です。
音韻認識は、言葉を構成する音のパターンを認識し、それらを操作する能力です。これには、音節の分割や韻を踏むことなどが含まれます。音だけを聞き分け認識できればよいので、文字は見ずに練習します。
一方、フォニックスは、これらの音の認識を活用して、文字と音の関係を理解し、印刷された単語をデコードする方法を学ぶプロセスです。つまり、音韻認識が豊かであればあるほど、子どもたちはフォニックスを通じて読み書きの技術を効率的に習得できるのです。
以上、今回のブログでは英語ディスレクシアが苦手とする音韻認識、の中でも特に音素認識について述べました。次回以降のブログでは音韻認識の他の3つの要素についても説明したいと思います。ちなみに音韻認識の中で一番難易度が高いのは今回述べた音素認識です(なぜ簡単なものからブログの題材にしなかったのだろうとまとめと書いている最中にやっと気づいた次第です)。